しづ心なく花の散るらむ

「ひさかたの ひかりのどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ」
これもご存知、
古今和歌集で紀友則が詠んだ歌。
紀友則は、土佐日記で有名な
紀貫之のいとこだそうです。

<訳>
こんなにも日の光が
のどかに射している春の日に、
なぜ桜の花だけは 落ち着かなげに
散っていってしまうのだろうか

見えるのは、
柔らかな春の日差しの中を、
桜の花びらが散っていく様子。
情景が目に浮かぶ、
とても視覚的で華やかな歌。
散り行く桜への哀愁も感じられます。

桜は、満開もすばらしいですが、
その花吹雪も、すぎゆく季節や
はかなさを感じさせる
とても美しい春の光景です。

「やっと暖かくなってきた
のどかな春の日なのに
桜の花だけはあわただしく
散っていってしまう。
なんでだろうか・・・」

古今和歌集の時代から
日本人が大切に共有してきた
この気持ち。
そんな気持ちを 何百年も昔の人と
共有できてよかった。

願わくば花の下にて春死なん

「願わくば 花の下にて 春死なん
そのきさらぎの 望月のころ」
西行法師の有名な歌。
(山家集・続古今和歌集)

<訳>
願いが叶うならば
桜の花咲く下で 春死にたい
お釈迦様の入滅した旧暦2月15日頃の
満月の夜に

きさらぎは旧暦の2月。
旧暦2月15日はお釈迦様の入滅した日。
今でいうと、この季節は
3月下旬から4月上旬頃でしょうか。
望月(もちづき)は満月のこと。
花と月がそろった美しい季節の中で
入滅されたお釈迦様へのあこがれ。

実際、西行は1190年2月16日に
本当に満月のもとで死んだそうです。
念ずれば叶う・・・でしょうか。

満月の夜に咲き誇る満開の山桜。
美しい、静かな情景が目に浮かびます。
こんな至上の幸福の中で死ねたら
なんて幸せなことか・・・
気持ちはとっても分かります。
日本人でよかった。

世の中にたえて桜のなかりせば

「世の中に たえて桜の なかりせば
春の心は のどけからまし」
古今和歌集で詠まれている
在原業平の歌です。

<訳>
世の中に 桜というものがなかったら、
さぞや春をのどかな気持ちで
過ごせるだろうに

春の季節には、桜があるために、
人の心は穏やかではありません。
人の心を騒ぎ立てます。

私も桜の咲く季節になると
桜のことが気になって
落ち着きがなくなります。

いつ頃咲き始めるかな?
満開はいつかな?
今年はどこの桜を見に行こう?
いつ頃まで花はもつだろう?
散っちゃうのはいつかな?

桜の満開の様子は、まさに春爛漫。
この世の春です。
春はみんなにやってきます。
どんな状況に置かれていても、
感じる心があれば、
幸せを感じることができます。